チーズプロフェッショナルへの道 その26
『チーズの教本』第 2章 地域別チーズ⑦ 北欧諸国と東地中海諸国のチーズ
『チーズの教本』地域別シリーズも終盤、7回目は北欧諸国です。ここで北欧諸国とは、具体的にはフィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランドのお写真5カ国を指します。ヨーロッパ大陸最北のデンマーク、さらにスカンジナビア半島のフィンランド及びスウェーデンは世界の4大酪農国(もう1カ国はアメリカ)と呼ばれるほどの酪農大国で、チーズ製造には適した環境が備わっています。
🌟 デンマーク
北ヨーロッパに位置するデンマークは、ユトランド半島と幾つもの島々から成り立っており、比較的温暖な気候に降雨量も多く酪農に適した環境に恵まれています。
全人口700万人にも満たないこの小国では、酪農は一つの国家事業となっています。
🇩🇰デンマークの主なチーズ
🧀ダナ・ブルー
フランスのロックフォールに倣って開発。ただ、使用する牛乳は粒子が均質化されたホモ牛乳で殺菌もされるため、保存性が高い。広く流通しており日本でも比較的に容易に手に入る。
真っ白な生地に緑色っぽい青カビが生えたルックス。塩気も刺激の強め。
- 原語表記:Danablu
- タイプ:青カビ
- 乳種:牛(殺菌 ホモ牛乳)
- 熟成期間:最低5週間
- 形状:円盤形 直径20cm 重さ3kg
直方体 30cm×12cm 重さ4kg - 固形分中乳脂肪量(MG):最低50% or 60%
🧀サムソー
名前は発祥の島の名前に由来。19世紀にスイスから連れてきた技術者による開発。マイルドな味わいで溶けやすく、ピザ製造用としても広く流通。
- 原語表記:Samsoe
- タイプ:ハード
- 乳種:牛
- 形状:四角形 重さ16kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):45%-49.9%
🧀マリボー
オランダのゴーダに倣った製造法によるハードチーズ。サムソーと並んで業務用として多く輸出されている。
- 原語表記:Maribo
- タイプ:ハード
- 乳種:牛
- 固形分中乳脂肪量(MG):45%-50%
🧀ハヴァティ
デンマーク最古のチーズとして有名。ハンナ・ニールセンという主婦が作ったとされる。
セミハードチーズでクリーム添加のものもあり、日本にはクリームハヴァティが多く輸入されている。
- 原語表記:Havarti
- タイプ:ハード
- 乳種:牛
- 形状:四角形 円柱形
- 固形分中乳脂肪量(MG):30%ー60%以上まで様々なバリエーション
🌟 ノルウェー
ノルウェーの人口は約550 万人で、国土面積は日本と同等ながら人口は18分の1程度という人口密度です。
スカンジナビア半島の北端に位置する地勢ですが、暖流の影響で温暖な気候で酪農が盛んです。ただし、スカンジナビア山脈が縦断しており国土にほとんど平地が無いという環境。そのため、山羊、羊といった厳しい環境にも適応する動物が多く飼われ、この国を代表するブルノストは山羊チーズ製を原料にしているタイプが多く作られています。
🇳🇴ノルウェーの主なチーズ
🧀ヤールスバーグ
スイスのハードチーズの代表格「エメンターラー」。ヤールスバーグはこのチーズを研究し改良をして作られている。ルックスはエメンターラー同様、大きなチーズアイが空いており、また味わいも極めてエメンターラーに近い。他の有名なハードチーズに比べると旨みも穏やか、万人向け。
- 原語表記:Jarlsberg
- タイプ:ハード
- 乳種:牛
- 固形分中乳脂肪量(MG):45%
🧀ブルノスト
ブルノストは、最も有名なノルウェーチーズ。山羊乳のホエーにクリームを加え、それを加熱し煮詰めてキャラメル状にしたもの。 キャラメルチーズとも呼ばれる。茶色い色や甘味も強いため、一般的なチーズのイメージとはかなり異なる特徴的なチーズ。
- 原語表記:Brunost
- タイプ:該当なし
- 乳種:山羊、牛などのホエイ
🌟 スウェーデン
デンマークに比べると酪農がさほど盛んではないスウェーデン。ただ、スウェーデンではチーズが好まれているようでスーパーでは多くの種類が並んでいるようです。どちらかというとハードチーズが好まれるようで、スウェーデンのチーズという意味の「スヴェキア」がポピュラーとなっています。また、ノルウェーでブルノスト等の製法を受けてか、ホエイを加熱したリコッタのような「ミゾスト」も人気です。
🌟 フィンランド
フィンランドは19世紀にスイスから技術移植を図りチーズの量産を始めました。その後の生産性の改良により、昨今はアメリカ等への輸出をするほどの生産量を誇っています。様々な地域からの様々なタイプのチーズを参考に、エメンタール、ゴーダ、チェダー等有名な各種のタイプのチーズを量産しています。暖炉の火で炙ってから熟成をかける「ユーストレイパ」はこの国のオリジナル。
また、トナカイの乳製のチーズの紹介も『チーズの教本』ではされていますが、泌乳量が少なく、現在は行われていないとされています。
🌟 アイスランド
アイスランドは小国ながら、国民一人当たりのチーズ消費量が世界6位と多く(2022年)、日本の10倍以上のボリュームです。最もポピュラーなアイスランドのチーズは「スキール」と呼ばれるもので脱脂乳から作られます。形状的にはヨーグルトから水分の抜いたようなタイプで、現在では様々なフレイバーを付けたものが売られています。
🌟 ギリシャ
歴史的な記録として、B.C.1,500年〜B.C.2,000年にはすでにギリシャではチーズは神々が好む食べ物との記述が残っているのだとか。その信憑性はともかく、現在もこの国では一般に広く普及しています。痩せた土地で農耕が向かないこの地域では、伝統t系に山羊や羊の乳が中心として用いられてきました。
🇬🇷ギリシャの主なチーズ
🧀フェタ
ギリシャ語の「スライス」に名前の由来。古代ギリシャ「ホメロスの時代」から進化していないというギリシャを代表するチーズ。現在では世界各国へ輸出も行われている。柔らかいフレッシュチーズで無数の孔が生地に空いているのが特徴的。
- 原語表記:Feta
- 産地:マケドニア等
- タイプ:フレッシュ
- 乳種:羊(山羊を30%まで加える事ができる)
- 固形分中乳脂肪量(MG):43%程度
🧀グラヴィエラ・クリティス
名前のクリティスはクレタ島から。グラヴィエラはスイスのグリュイエールから来ている。すなわち言わばクレタ島のグリュイエールと言うハードチーズ。
- 原語表記:Graviera Kritis
- 産地:クレタ島
- タイプ:ハード
- 乳種:羊(山羊を30%まで加える事ができる)
- 熟成期間:最低5ヶ月
- 固形分中乳脂肪量(MG):40%程度
🌟 キプロス
ヨーロッパ、アジア、アフリカに囲まれた島国のキプロスは、歴史的に様々な地域から様々なカルチャーが流入して来ました。温暖な気候で植物の生育も良く、羊や山羊が伝統的に育てられて来ています。チーズ作りも、伝統的な産業の一つとなっています。
🇨🇾キプロスの主なチーズ
🧀ハルミ
- 原語表記:Halloumi
キプロスのチーズと言ったらハルミ。世界でも有名で各地域に輸出されています。
レンネット凝固させたカードをマット状にし熱湯で煮る。それを引き揚げた後に塩を加えて二つ折りにして成形するというシンプルな製法。パスタフィラータのような繊維が出来、シコシコとした食感が特徴的。保存のために塩水に漬けるのが一般的。
🧀アナリ
ハルミのホエイを加熱して凝固させ脱水したもの。
- 原語表記:Anari
🌟 トルコ
壮大な歴史を持つトルコでは、現在はユルックと呼ばれる遊牧生活をしている人たちが伝統的なヨーグルトやチーズを作っています。山羊、羊、牛、水牛の乳をも用いるようですが、遊牧生活の中での製造のため、熟成の工程はほぼなく、塩気の強いフレッシュタイプのものが多いのが特徴です。
製法としての特徴は動物レンネットを使用するところで、酸凝固を中心とするアジアエリアとは異なる所です。
🇹🇷トルコの主なチーズ
🧀ベヤズ・ペイニル
動物レンネットで羊等の乳を凝固された塩気の強いフレッシュタイプ。トルコを代表するチーズ。
- 原語表記:Beyaz Peynir
- 乳種:羊、山羊、水牛
🧀カシャル・ペイニリ
ベヤズに次ぐ人気チーズで、フレッシュタイプと熟成タイプがある。
- 原語表記:Kasar Peyniri
- 乳種:羊