チーズプロフェッショナルへの道 その28
『チーズの教本』第2章 日本のチーズの環境
『チーズの教本』の国別チーズ紹介で最後のコーナーとして日本が登場するのですが、他の地域の紹介と違い個別のチーズの紹介は無く、歴史や統計的な記述に徹しています。具体的なコンテンツとしては、
- 日本における乳製品とチーズの歴史
- 国産チーズと輸入チーズのデータ
- 日本のチーズに関する輸入関税
- チーズの国内消費のデータ
- 国産チーズの動向
と言う内容になっています。
🌟 日本における乳製品とチーズの歴史
🇯🇵飛鳥・奈良時代〜江戸時代
そもそも日本の食文化の中で乳製品は輸入品ですが、古くは『新撰姓氏録』に7世紀頃に善那と言う中国からの渡来人が孝徳天皇に牛乳を献上したとの記録が残っています。
チーズに関しては『右官史記』と言う書物の中に700年頃「蘇」を作らせたと言う記録があり、それが日本におけるチーズの原型と現在はされています。
江戸時代中期の1728年に徳川吉宗はインドから白牛を3頭輸入し、絞った牛乳を糖を加えながら煮詰めて乾燥させた「白牛酪」と言うものを作らせた記録がありますが、ただこれは一般には普及するようなものではありませんでした。
🇯🇵明治時代
日本で酪農が本格的に始まったのは明治時代の北海道。1872年に函館の七重に明治政府直轄の「七重官園」と呼ばれる試験場が作られています。エドウィン・ダンなどの外国人指導者の元で技術が発達し、「七重官園」出身の迫田喜二は『乾酪製法記』と言う手記も残しました。
民間では1900年にトラピスト修道院でチーズ作りが始まりました。
🇯🇵昭和以降
本格的に日本でチーズが普及し始めたのは2次大戦後のアメリカ占領下で、学校給食の中で展開されたプロセスチーズが主役でした。
その後、1964年の東京オリンピック開催のタイミングで、フランスからナチュラルチーズの空輸が始まりましたが、輸入量も少なく、またコストも多額にかかっていたため一般家庭に届くような普及品にはなり得ませんでした。
1970年代にピザが一般普及し始め、シュレッドチーズを溶かして食べる習慣が急速に拡大します。1980年代後半から1990年代にかけて、日本ではバブル景気の中で本格イタリアンやフレンチが広く普及するようになり、多くの一般消費者にナチュラルチーズが馴染んで行きました。
1992年にチーズ普及協議会と日本輸入チーズ普及協会などが中心になって「11月11日はチーズの日」と取り決められました。以降、輸入ナチュラルチーズも増えつつ国産のナチュラルチーズ生産量も伸び、日本においてもナチュラルチーズはもはや通常の食べ物となっています。
🌟 国産チーズと輸入チーズ
- 2021年の国産ナチュラルチーズの年間生産量は45,300トン。
- 45,300トンのうち50%強は直接ナチュラルチーズとして販売。残りはプロセスチーズの原料。
- プロセスチーズの年間生産量は142,000トン。88,000トンの原料チーズを輸入し国産原料は18%程度。
- 原料チーズの輸入国はオセアニアの2国とアメリカが中心。
🌟 日本のチーズに関する輸入関税
チーズの輸入に掛かる関税は価格に対して掛かる従価税。物の値段に保険料、送料を加えたCIF価格に対して関税率(29.8%)がかけられます。
ただし、プロセスチーズの原料として輸入する量も多いため、一定の数量の枠内に限って無税になる「国産プロセスチーズに対する関税割当制度」と言うものがあります。
この関税割当制度は、プロセスチーズ製造の原料となる国産ナチュラルチーズの2.5倍相当量までが無税とされる制度です。またEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)、TPP(環太平洋連携協定)などの国家間での取り決めで関税の段階的引き下げなどが行われている貿易相手国もあります。
🌟 チーズの国内消費のデータ
- 2021年チーズの国内総消費量は約355,000トン(ナチュラルチーズ212,000トン、プロセスチーズ143,000トン)
- 一人当たり年間平均2.6kg
- 1980年代後半にナチュラルチーズの消費量がプロセスチーズを上回り、その後徐々に差が広がる
- 消費の40%が家庭用、60%が業務用
- 家庭用ではプロセスチーズの消費がやや優勢
- 家庭用消費のナチュラルチーズではシュレッドタイプが圧倒的
- 業務用ではナチュラルチーズが圧倒的
- 輸入のナチュラルチーズでそのまま食されるものは約188,000トン(プロセスチーズ原料は88,000トン)
🌟 国産チーズの動向
- 国内には大手から家族経営まで含め、300以上のチーズ製造所がある
- 製造拠点は大半が北海道に集中しつつも全国にある
- チーズの市場規模は3,500億円で、そのうち9割は大手メーカーが占める
- 大手の販売ルートはスーパーやコンビニなどの流通中心、一方の工房などの製品は専門店やECが中心
- コンテスト等、国産ナチュラルチーズが市場に紹介される機会も増加傾向にある