チーズプロフェッショナルへの道 その2
『チーズの教本』序章 チーズの歴史
チーズプロフェッショナルのための勉強の第一歩はチーズの歴史を学ぶところから始まります。意外にもその起源は古く、紀元前の原始社会。
🌟始まりは野生動物の家畜化から
話はいきなりB.C.9,000年〜8,500年のメソポタミアというとんでもなく遠い昔から始まります。この頃の人間は草食で農耕をを始めたと。そして、その草木に草食動物達が寄って来て、人間が生活している側に住み着くようになったのだそうです。人間は完全草食動物では無いので、寄ってきた草食動物達を捕まえて食べ始め、それを合理的に確保するように家畜化して行ったと言う流れ。
その頃、メソポタミアに寄って来た動物は、羊、山羊、牛だったようですが、やはり家畜化するには個体の小さいものの方がやりやすかったようで、順序としては山羊→羊→牛の順だった言う歴史的分析がなされています。そして牛は、B.C.7,000年頃に現在のトルコ辺りで始まったようです。
牛は、羊や山羊と違って体が大きいため、家畜の利用としては効率が良いわけですね。そして人に慣れやすい性質の動物だそうで、家畜の対象としては最も合理的だったようです。
最初は食用の肉が目的の家畜だったのが、家畜が出す乳にも焦点が当たって行ったのは、牛は親子のどちらかが死んだ場合、他の個体(親の場合も子の場合も)には寄りつかない性質があるようで、人間がそれを媒介して授乳をした、と言う説が有力説になっています。
真実は定かではありませんが、何やらちょっとホッコリする話です。
🌟家畜の乳を固める事がチーズの原点
家畜を飼う目的が、その肉では無く乳をも対象にし始めると、搾乳したまま放置してしまうと腐ってしまうことから、なんとか栄養素をキープしながら保存する方法を考え始めたようです。すなわち、それを固形物にして扱いようにすると。すなわち「凝乳」の開発で、それが世界のチーズの原点とされているプロセスです。乳を固めて凝乳を作る方法は3つ。
- 酸による凝固
- レンネット(凝乳酵素)による凝固
- 加熱による凝固
1、はレモン等の果汁のような酸性の液体を加える事により乳が固まる性質を利用したものです。
2、はある特定の酵素を加える事により、乳が固まる事の発見により見出された方法で、現代のチーズ製造のメインとなっている凝乳製造方法です。
3、は乳を加熱すると固まる性質を利用したもので、現代のチーズでも一部のフレッシュチーズでメジャーに利用されている方法です。
🌟原点から世界への伝播
全34ページで構成されているこの章では、「チーズとは何か?」と言う一般基礎知識を習得します。具体的には、
- 原料となる乳に関する事項
- 成分構成
- 製造の概要とチーズの分類
- ナチュラルチーズの一般製造工程
- タイプ別の製造工程及び変化の状況
- プロセスチーズの製造方法
- 様々なチーズの形態
と言ったところが主な内容で盛りだくさんです。特に、乳に関する情報とタイプ別の製造方法については奥が深く、また理系的な情報の理解と知識の定着が求められます。菌や乳成分に関する部分はほぼ高校の化学の教科書のような内容で、文系の人にとっては結構とっつきにくいパートと言えると思います。
ただ、プロセスチーズを含む各種製造方法については、完璧に理解していなければチーズの「プロフェッショナル」とは謳えないと思われる非常に重要なポイントで、チーズプロフェッショナル試験の一つの大きなコアとなる部分のため、深い理解と記憶が必要です。
🌟近代チーズの状況
🧀原産地の保護
現在では、ヨーロッパを中心にチーズの原産地保護の制度がしっかりと整備されていますが、その歴史は意外に古くも15世紀でフランスから始まりました。青かびチーズで有名なロックフォールが生まれたロックフォール・シュール・スールゾン村の住人にその時の国王シャルル6世が特許状を与えたのだとか。その後、
- 1905年「商品販売時の不正行為と食品と能作物の偽造の取締り」
- 1919年「現参議の名称の保護に関する法律」
- 1925年 ロックフォールがAppellation d’Origine(原産地呼称)獲得
- 1935年「原産地名称統制法」成立
- 1952年 ストレーザ協定制定
- 1992 原産地名称保護『P.D.O』策定
と言う流れで、現在の形になって行きました。
🧀チーズ製造技術の近代化
かつて、製造業は全て人によるものであったところ、18世紀にイギリスで起きた産業革命後は多くの分野の製造業で工業化が進む事になりますが、チーズの製造にも影響を与える事になりました。
- 1877年 スウェーデン人カール・グスタッフ・パトリック・ド・ラヴァル発明の遠心分離機による乳脂肪分抽出技術
- 1870年代 ドイツ人カール・リンデが冷凍機開発
- 1900年頃 ミルカー(自動搾乳機)発明
- 1900年代 J.クラフトによるシカゴでのプロセスチーズ発売開始(開発はスイス人)
- 1870年代 デンマーク人クリスチャン・ハンセンがレンネット(凝乳酵素キモシン)抽出成功
- 1960年以降 キモシンをカビから抽出
- 1870年代 イギリス人ジョセフ・リスターが乳酸菌の分離培養
- 1890年代 クリスチャン・ハンセンが粉末スターター(乳酸菌)販売開始
- 1866年 フランス人ルイ・パスツールが低温殺菌法開発
- 1950年代後半 プラスチックフィルム包装技術普及
- 1960年代 家庭用冷蔵庫普及と冷蔵輸送技術の進歩により流通と保存の可能範囲が拡大