チーズプロフェッショナルへの道 その24
『チーズの教本』第 2章 地域別チーズ⑤ イギリス&アイルランドのチーズ
『チーズの教本』の国別チーズ紹介、イベリア半島2カ国に続くのはU.K.の2カ国、イギリスとアイルランドです。イギリス(United Kingdom)は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの国から成り立っています。
イギリスは酪農に適した自然環境の地域が多いため、乳製品製造の歴史も古く紀元前4,000年頃には乳加工が始まっていたと言われています。当初は各個別の農家単位で製造されていたところが、産業革命の後、チーズ製造も標準化が進行し、オートメーション方式で造られるように様変わりして行きました。
その後、行きすぎた工業化に対する揺り戻しの流れがあり、地域的の特徴と個性を持ったチーズ作りが復活しました(農家製チーズの復興)。これらのイギリスオリジナルの伝統的なチーズは「テリトリアルチーズ」と称されています。その流れから、ヨーロッパの他の地域からのアイテムにヒントを得て新たなスタイルのチーズが作られるようになり、それは「アルチザンチーズ」と呼ばれ現在も進行形で発展しています。
🌟 イギリスチーズのGIについて
イギリスは2020年にEUを離脱したため、他の国のP.D.O.やD.O.P.の基準とは別に独自の基準を設けています。個別のチーズに関して、それぞれの認定を取得したタイミングの違いから複雑なルールになってしまっています。
- 2020年12月31日の時点でEUの名称保護を取得したもの → EUとイギリス両方で名称保護対象
- アイルランド以外のイギリスで販売されるEU名称保護取得済みイギリス産のもの → 2024年1月1日以降は一リスの新しい保護マーク表示義務
- アイルランド以外のイギリスで生産され、アイルランドで販売されるEU名称保護取得済みのもの → 20新しい保護マーク表示可能
- アイルランド以外のイギリスで生産され、イギリス外で販売されるEU名称保護取得済みのもの → 任意で新しい保護マーク表示可能
- イギリス内外で販売するイギリス産でEU名称保護取得済みのもの → 任意でこれまでのEU名称保護マーク表示可能
- 2021年1月1日以降にイギリスの地理的表示保護を受けたもの(環境食料農村地域省より) → 新しい保護マーク表示義務
🌟 イギリスの主なP.D.O.チーズ
🧀ブルー・スティルトン・チーズ/ホワイト・スティルトン・チーズ
イギリスを代表する青カビチーズであるが青カビを発生させないホワイト・スティルトンもある。スティルトンはこのチーズ発祥の村の名前で、かつては「スティルトンのチーズ」と呼ばれていたものが、やがてチーズそのものの名前になった。
1911年に生産組合が組成され製造仕様も確定、199年にEUの原産地名称保護認証を取得した。それ以降、イングランド中部のノッティンガム州、レスター州、ダービー州内で、規定に沿って作られるもののみこのチーズの名前を語れるようになった。
製造法にはチェダリングが用いられている。
- 原語表記:Blue Stilton Cheese/White Stilton Cheese
- 産地:ノッティンガム州 レスター州 ダービー州
- タイプ:青カビ
- 乳種:牛(殺菌)
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低48%
🧀ウェスト・カントリー・ファームハウス・チェダー・チーズ
最早セミハードチーズの名称としては世界的に有名になった「チェダー」は、このチーズが生産されるサマセット州の村の名前であった。1996年にこのチーズがEUの原産地名称保護認証を取得してから、サマセット州、デヴォン州、コーンウォール半島にドーセット州を加えた地域でのみ生産仕様に従って生産される。
現在ではチーズ製造の一つとして重要な地位を占めるチェダリングの元祖であるが、伝統的製法は大きさの規定もあり、また周囲が布で巻かれていた。現在は、その細かい規定がやや曖昧な形になってしまったため、生産者はこの名称を使わない傾向にある。
- 原語表記:West Country Farmhouse Cheddar Cheese
- 産地:サマセット州 デヴォン州 コーンウォール半島 ドーセット州
- タイプ:ハード
- 乳種:牛
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低48%
🧀ビーコン・フェル・トラディショナル・ランカシャー・チーズ
ランカシャー州発の「テリトリアルチーズ」の一つ。第二次大戦前は多くの生産者がおり、流通量も多かったこのチーズは19世紀のこの地域の工業化の流れの中で生産が減っていった。模倣品も多く出回って行く中で伝統的な製法を維持した生産者によって1996年EUの原産地名称保護認証を取得した。
チェダリング製法により作られ、表面はワックスコーティングがされる。
- 原語表記:Beacon Fell Traditional Lancashire Cheese
- 産地:ランカシャー州
- 乳種:牛(殺菌)
- タイプ:ハード
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低48%
🧀シングル・グロスター
ロンドンに近いイギリス中部グロスター州生まれの「テリトリアル」チーズの一つ。近代の工業化の中で、地元の牛「グロスター牛」と共に一度廃れたが、1970年代からの農家製チーズの復興期に復活、EUの原産地名称保護認証も取得。
- 原語表記:Single Gloucester
- 産地:グロスター州
- タイプ:ハード
- 乳種:牛
- 固形分中乳脂肪量(MG):標準58%程度
🌟 イギリスの伝統的なチーズ テリトリアルチーズ
1970年代に、かつての農家製のチーズの復興期があり、その期に復活したチーズカテゴリーです。ここに紹介するチーズは全て無殺菌の牛乳で作られます。
🧀農家製クロスバウンドチェダー タイプ
伝統的なクロスバウンド(布巻き)をした25kg程度のチェダリングチーズ。代表的なチーズ名称は、モンゴメリー・チェダー、クイックス・クロスバウンド・チェダー。
🧀農家製クロスバウンドレッドレスター タイプ
レスター州の農家で生産されるアナトーで着色をしたクロスバウンド(布巻き)チーズ。チェダリングしたものより酸味が弱い。代表的チーズ名称は、スパークンホー・レッド・レスター。
🧀農家製クロスバウンドチェシャー タイプ
イングランド北西部のチェシャー平原で作られる。この土地ならではミネラル感が豊富。一度廃れて戦後に復活した伝統的チーズ。代表名はアップルビーズ・チェシャー。
🧀農家製クロスバウンドランカシャー タイプ
ランカシャーの伝統的農家製で無殺菌を使用し作られる希少なチーズ。代表的(2024年現在は一つのみ)チーズ名称はカーカムズ・ランカシャー
🧀農家製ウェンズリーデール
ヨーク州ウェンズリーデールとその周辺で伝統的に生産されていたタイプ。代表的なチーズ名称はストーンベック・ウェンズリーデール、オールド・ロアン・ウェンズリーデール、ウィン・イーツ・フェルストーン。
🧀農家製伝統的青カビチーズ
ブルー・スティルトン・チーズの無殺菌乳版。乳の殺菌以外は同様な製法で作られる。代表的なチーズ名称は、スティッチェルトン、スパークンホー・ブルー。
🌟 イギリスのモダンタイプのチーズ アルチザン
🧀ドーンストン
山羊乳を酸凝固させて作る酵母タイプ。外皮には植物性の灰がまぶされる。
🧀タンワース
イギリスには伝統的になかった白カビタイプ。
🧀バロン・バイゴット
モンベリアード種の牛乳に拘ったフランスのブリに似た白カビタイプ。
🧀スティンキング・ビショップ
表皮を洋梨酒のペリーで洗うウォッシュタイプ。
🧀ロールライト
フランスのモンドールとルブロションにヒントを参考に作られたウォッシュタイプ。
🧀アイル・オブ・マル
スコットランドのマル島で作られるチェダータイプのハードチーズ。
🧀リンカーンシャー・ポーチャー
イギリス東部のリンカーン州で作られる、チェダー製法とヨーロッパの山のチーズの製法を融合させた新たなハードチーズ。
🧀リンドレスチェダー
量産型のチェダー製ハードチーズ。真空パックされ外皮は無く(リンドレス)、流通されやすいように四角形をしている。
🧀コーニッシュ・ヤーグ
17世紀の文献に書かれた製法を現代に甦らせ作られたチーズ。酸味のあるチーズをイラクサの葉で熟成させるユニークな外観。
🧀バークスウェル
無殺菌の羊乳で作られるハードチーズ。一般のザルをモールドとして使用するのでUFO型になる。
🧀シュロップシャー・ブルー
スティルトンの生地にアナトーで着色をしているタイプの青カビチーズ。スティルトンと同じ生産者が製造しているケースが多い。スティルトンより弾力が強い。
🧀セージ・ダービー
セージを葉をチーズの生地に練り込み、緑色の大理石のような模様が特徴のハードチーズ。
🌟 アイルランドのチーズ
アイルランドは、大西洋に面しており暖流の影響を強く受けやすく、温暖で降水量が多い環境です。年間の2/3は酪農が可能というチーズ製造には恵まれた地域で、アメリカやアジアへの輸出をするほどチーズ生産は盛んな国です。
🧀アイリッシュ・ポーター
チェダー製のチーズの生地に、アイルランドならではのお酒、アイリッシュ・ポーターをブレンドしたハードチーズ。黒と乳白色が大理石のようにマダラになり美しい。見た目のみならず、コク、酸味、ポーターの香ばしさのバランスがユニーク。
- 原語表記:Irish Porter
- タイプ:ハード
- 乳種:牛