チーズプロフェッショナルへの道 その15
『チーズの教本』第 2章 地域別チーズ① フランスのA.O.C. A.O.Pチーズ パートⅡ 東部〜オーヴェルニュと南部
『チーズプロフェッショナルへの道 その14 フランスのA.O.C. A.O.Pチーズ パートⅠ 西部〜中央部〜北部と北東部』に続き、フランス東部からオーヴェルニュと南部のA.O.C. A.O.Pチーズをご紹介。前回と今回で『チーズの教本』内のフランスA.O.C. A.O.Pチーズは全て網羅する事になります。
🌟 東部
フランスの東部のスイスと隣接するフランシュ=コンテ地方は、標高1,000〜1,500m級の山々で構成されるジュラ山脈がチーズ作りの環境に大きく影響を与えています。すなわち、冬の間長く厳しく雪に閉ざされた生活を乗り切るために、長期保存が可能なチーズが伝統的に作られてきました。この地域の代表格とも言うコンテ(Comté)は、フランスA.O.P.チーズの中でも最大の生産量を誇ります。
また、この地域の特徴の一つとしてエセピアという針葉樹が製造やパッケージに多用され、現在もその伝統が生きています。ちなみにウォッシュチーズとして大変人気のあるモン・ドール(Mont d’Or)の木箱はこのエセピアで造られています。
フランシュ=コンテ南側のローヌ・アルプ地方は、その中央を流れるローヌ川の周辺で小型の山羊乳のチーズや青カビタイプのチーズが造られています。
また、イタリア国境のアルプス山脈に位置しているサヴォワ地方では、大型のハードチーズ、いわゆる「山のチーズ」が多く造られています。
🇫🇷フランシュ=コンテ地方
🧀モルビエ
ショドロン(銅鍋)の底の煤を熟成前にチーズ表面に塗し、その上に新たなカードを重ねるため真ん中に煤の層が出来る。現在は灰を使用。非加熱圧搾による製造。
- 原語表記:Morbier
- タイプ:ハード
- 乳種:牛(無殺菌)
- 熟成期間:最低45日
- 形状:直径 30-40cm 5-8kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🧀コンテ
1000年以上の歴史を持つフランスを代表するハードチーズ。加熱圧搾製法。モンベリアード種の牛乳を使用。フリュイティエールと呼ばれる工房で造られ、アフィヌール(熟成士)が熟成を進める。酪農家+チーズ職人+熟成士の専門分野の分業によって作られる。
冬=ヘーゼルナッツや豆を炒った香りがする。12/20点以上で茶色A.O.P.マークが付され、 14/20点以上は緑色A.O.P.マークが付される。日本では殆どが緑色マーク。
- 原語表記:Comté
- タイプ:ハード
- 乳種:部分脱脂牛乳(無殺菌)
- 熟成期間:最低120日
- 形状:車輪型 直径 55-74cm 高さ10cm 32-45kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45-54%
🧀モンドール
スイス国境の山の名前を冠した季節限定のウォッシュチーズ。エピセア(もみの木)樹皮で巻いて熟成されエピセアの木箱に入れられる。季節の限定は製造だけでなく販売にも設けられている(製造 : 8/15-3/15、販売:9/10-5/10)。極めて濃厚かつリッチな味わいが人気のウォッシュタイプ。
- 原語表記:Mont d’Or
- タイプ:ウォッシュ
- 乳種:牛(無殺菌)
- 熟成期間:最低21日
- 形状:直径 480g-3.2kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🧀ブルー・ド・ジェックス・オー・ジュラ
13世紀にサンクロード修道院の修道士が製造したと言われる。18世紀終りには山のチーズ小屋(シャレ)で作られていたとされる。ノワゼットの香り。
- 原語表記:Bleu de Gex Haut-Jura
- タイプ:青カビ
- 乳種:牛(無殺菌)
- 熟成期間:最低21日
- 形状:直径 31-35cm 高さ 10cm 6-9kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低50%
🇫🇷ローヌ・アルプ地方
🧀ピコドン
ローカルワードで「ピリッと辛い小さなチーズ」という意味を持つ、小さなメダル型のシェーブルチーズ。
- 原語表記:Picodon
- タイプ:酵母
- 乳種:山羊(無殺菌)
- 熟成期間:最低12日
- 形状:直径 5-7cm 高さ 2cm程度 60g
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🧀リゴット・ド・コンドリュー
仔山羊の動物性レンネットによる凝固を利用、酸よりしっかり固まる。カードのカットは行わずルーシュで型詰めをする。極めて小さなシェーブルチーズ。
- 原語表記:Rigotte de Condrieu
- タイプ:酵母
- 乳種:山羊(無殺菌)
- 熟成期間:最低8日
- 形状:直径 5cm程度 高さ2cm 30g
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低40%
🧀ブルー・デュ・ヴェルコール・サスナージュ
ヴェルコール山地にて14世紀から作られる歴史のある青カビチーズ。消滅の危機にあったがまたフェルミエでの製造が復活して現在に至る。
- 原語表記:Bleu du Vercors-Sassenage
- タイプ:青カビ
- 乳種:牛
- 熟成期間:最低21日
- 形状:直径 30cm程度 4-4.5kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低48%
🧀フルム・ド・モンブリゾン
オレンジがかった表皮と高さのある形状が特徴。チェダリング製法。モンブリゾン村にて、針葉樹の木の雨どい状の棚を利用して作られる。
- 原語表記:Fourme de Montbrison
- タイプ:青カビ
- 乳種:牛
- 熟成期間:最低32日
- 形状:直径 13cm程度 高さ19cm程度 2.5kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低52%
🇫🇷サヴォワ地方
🧀アボンダンス
14世紀から続くアボンダンス種の牛の乳を使ったハードチーズ。45-50°という半加熱圧搾のやや特殊なタイプの製造法。内側に湾曲。コンテに使われるモンベリアード種やタランテーズ種の牛乳も使用されている。
- 原語表記:Abondance
- タイプ:ハード
- 乳種:牛乳(無殺菌)
- 熟成期間:最低100日
- 形状:直径 40cm 高さ 8cm程度 6-12g
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低48%
🧀ルブロション
再び絞るという意味を持つ名前。13世紀に農地の使用税を乳で払っていた時代に、こっそり二度に分けて搾乳していた事から付いた。おしのびチーズとも呼ばれる。じゃがいもと作るタルティフレット(グラタン)が有名。
- 原語表記:Reblochon
- タイプ:ハード
- 乳種:牛(無殺菌)
- 熟成期間:最低15日
- 形状:大型-直径 14cm 500g 小型-直径9cm 250g
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🧀シュブロタン
ルブロションの山羊版。フェルミエ100%。アルピーヌ種の羊乳を80%使用しなければならない。
- 原語表記:Chevrotin
- タイプ:ハード
- 乳種:山羊(無殺菌)
- 熟成期間:最低21日
- 形状:直径 9-12cm 高さ 4cm程度 300g
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低40%
🧀トム・デ・ボージュ
険しく切り立ったボージュ山地の一帯で作られるハードチーズ。トム(Tome)は丸く成形したカードの意味。表皮に自然なカビが生育するのが特徴。まさに素朴な山のチーズ。
素朴な山のチーズ
- 原語表記:Tome des Bauges
- タイプ:ハード
- 乳種:山羊(無殺菌)
- 熟成期間:最低12日
- 形状:直径 18cm程度 高さ 5cm程度 1.3kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🧀ボーフォール
アボンダンスと同様に内側に湾曲した形状。加熱圧搾(53-56°)によるハードチーズ。6月ー10月に製造されたものは「エテ」と表記される。また、1,500m以上の高地、山のチーズ小屋で伝統手法で造られたものは「シャレ・ダルパージュ(Chalet d’Algage)」と表記される。
- 原語表記:Beaufort
- タイプ:ハード
- 乳種:牛(無殺菌)
- 熟成期間:最低5ヶ月
- 形状:直径 35-75cm 高さ 15cm程度 平均45kg 大きいのものは70kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低48%
🌟フランス オーヴェルニュと南部
オーヴェルニュ地方は、自然環境的にはマシフ・サントラル(中央高地)と呼ばれるフランス国内で最も広範囲にわたる山岳地帯があり、チーズ作りもその環境の影響を受けています。この地域で生産されるハードチーズの代表格のカンタル(Cantal)は、ローマ時代から造られている言われる程古い歴史を持つチーズです。
また、マシフ・サントラルの南部ではグラン・コースと呼ばれる石灰岩台地があり、青カビチーズで有名なロックフォールは石灰岩の堆積物から出来た洞窟で造られています。
スペイン国境地域のフランス南部にはピレネー山脈があり、そこではオッソー・イラティ(Ossau-Iraty)と呼ばれる羊乳製のチーズが伝統的に造られています。
地中海に臨むプロヴァンス地方では、広い牧草地の確保が難しい土地のため、粗食でも耐えられる山羊乳チーズが多く造られています。
🇫🇷オーヴェルニュ地方
🧀サン・ネクテール
皮は白、赤、黄のカビが生え分厚い。緑のカゼインマーク が楕円形はフェルミエ、正方形はレティエ(工場製)。シャンピニオンとノワゼットの香りが特徴。
- 原語表記:Saint-Nectaire
- タイプ:ハード
- 乳種:牛乳
- 熟成期間:最低21-28日
- 形状:大型 直径 22cm程度 高さ 5cm程度 1.8kg 小型 直径13cm程度 高さ 4cm程度 650g
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🧀フルム・ダンベール
表皮薄く中身は均一の美しい青カビの筒形チーズ。フォレ山脈アンベール村に由来。ジャスりと呼ばれるチーズ小屋。
- 原語表記:Fourme d’Ambert
- タイプ:青カビ
- 乳種:牛
- 熟成期間:最低28日
- 形状:直径 13cm程度 高さ 18cm程度 2.2kg程度
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低50%
🧀ブルー・ドーベルニュ
19世紀に入って登場した比較的新しい青カビチーズ。緑がかった青カビが全体を覆う。軽いノワゼットの香り、オーヴェルニュのブルーの意味。
- 原語表記:Bleu d’Auvergne
- タイプ:青カビ
- 乳種:牛
- 熟成期間:最低28日
- 形状:直径 20cm程度 高さ 10cm程度 2.5kg程度
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低50%
🧀カンタル
起源は数千年前。夏はビュロンと呼ばれる石造りの小屋で製造。チェダリング製法。10時間かけカードがpH5.0-5.4になったところで粉砕し加塩、その後さらに18時間圧搾してから熟成、木の実のような優しさ。
- 原語表記:Cantal
- タイプ:ハード
- 乳種:牛
- 熟成期間:ジュンヌ:30-60日、アントル・ドゥ:90-210日、ヴュー:最低240日
- 形状:直径 40cm程度 40kg程度
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🧀サレール
カンタル同様の歴史。4/15-7/15のみの製造。100%フェルミエ(=シュブロタン)。チェダリング製法。表皮は茶色でゴツゴツした状態だが中身は締まった黄金色の生地。
- 原語表記:Salers
- タイプ:ハード
- 乳種:牛(無殺菌)
- 熟成期間:最低3ヶ月
- 形状:直径 45cm程度 30-50kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低44%
🇫🇷ミディ・ピレネー地方、アキテーヌ地方
🧀ライオル
カンタル同様古いチーズ。チェダリング製法。夏はビュロン(石造りの小屋)にて製造。石臼のような表皮に雄牛のデザイン。冬にスペイン、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼者に提供。
- 原語表記:Laguiole
- タイプ:ハード
- 乳種:牛(無殺菌)
- 熟成期間:最低4ヶ月
- 形状:直径 35cm程度 高さは直径の80%程度 20-50kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🧀ロカマドゥール
ケルシー地方(元巡礼地の石灰岩台地)で作られる。表面が黄色味をおびたメダル型。1-2ヶ月で辛口に変化する。酸による凝固が特徴。
- 原語表記:Rocamadour
- タイプ:酵母
- 乳種:山羊(無殺菌)
- 熟成期間:最低6日
- 形状:直径 6cm 高さ 1.6cm 35g
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🧀ロックフォール
11世紀に巡礼地コンクの修道院に寄贈。15世紀、シャルル6世が許可状を出す。アヴェロン県ロックフォール・シュール・スールゾン村が発祥。ラコーヌ種の羊乳を使用。1925年A.O、フルリーヌという亀裂からの風を受けて熟成する。製造期間は12月-6月の間。大きなカビ孔が特徴で組織は脆い。
- 原語表記:Roquefort
- タイプ:青カビ
- 乳種:羊(無殺菌)
- 熟成期間:約90日
- 形状:直径 20cm程度 高さ 10cm程度 2.5-3kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低52%
🧀ブルー・デ・コース
起源は中央高地南部の伝統的チーズ製法。ロックフォール同様自然洞窟での製造。ロックフォールの牛乳版。コースとは石灰岩台地のこと。風味強く極めてクリーミーな食感。
- 原語表記:Bleu des Causses
- タイプ:青カビ
- 乳種:牛
- 熟成期間:最低70日
- 形状:直径 20cm 高さ 9cm程度 2.5kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低48%
🧀オッソー・イラティ
ピレネー山脈西端部分で製造。オッソー谷、イラティ森に名前が由来。限定された羊乳(バスコ・ベアルネーズ、マネシュ・テット・ノワール、マネシュ・テット・ルース)が原料。9-10月は製造禁止。夏期の放牧羊から取った原料によるものはエスティーブ(Estiv)と記載可能。
- 原語表記:Ossau-Iraty
- タイプ:ハード
- 乳種:羊(フェルミエは無殺菌)
- 熟成期間:大型-最低120日、小型-最低80日
- 形状:大型-直径 25cm程度 高さ 12cm程度 4.5kg 小型-直径19cm程度 高さ 10cm 2.5kg程度
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低50%
🧀ペラルドン
古い起源のチーズ。舌を刺すようなペーブル(コショウ)がネーミング起源。表皮薄く濃厚な味わい。
- 原語表記:Pélardon
- タイプ:酵母
- 乳種:山羊(無殺菌)
- 熟成期間:最低11日
- 形状:直径 6cm 高さ 2.5cm程度 60g
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🇫🇷プロヴァンス・コルス地方
🧀バノン
レンネット凝固。栗の葉で包み、ラフィアという椰子の繊維で結ぶ。使用される乳の山羊は限定されている。
- 原語表記:Banon
- タイプ:酵母
- 乳種:山羊(無殺菌)
- 熟成期間:最低15日
- 形状:直径 8cm程度 高さ 2.5cm程度 100g程度
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低40%
🧀ブルース・デュ・ロヴ
ブルース=フレッシュチーズ。加熱、一番新しいA.O.P、酸性化剤としてアルコール・ビネガーを使用。容器コルネに充填。
- 原語表記:Brousse du Rove
- タイプ:フレッシュ
- 乳種:山羊(無殺菌)
- 熟成期間:なし
- 形状:上部直径 3.2cm、底部直径2.2の円錐台
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🧀ブロッチュ
ホエイを40-50°で加熱し塩と全乳加える。かき混ぜながら80〜90°まで加熱。リコッタと同様。コルシカ(コルス)島。
- 原語表記:Brocciu
- タイプ:C.P.A.上の分類なし
- 乳種:羊及び山羊のホエイ+羊及び山羊の全乳(無殺菌)
- 熟成期間:フレッシュタイプはなし、熟成タイプは最低21日
- 形状:250g-3kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低40%