チーズプロフェッショナルへの道 その31
『チーズの教本』第3章 チーズを広める③ チーズの栄養と健康
一般に、食品には三つの大きな機能があると言われており、それは具体的には
- 一次機能:栄養素として生命を維持し身体を成長させる機能
- 二次機能:風味や物性に基づいたおいしさや嗜好性に関わる機能
- 三次機能:身体の生理機能を調整することで健康維持に寄与する機能
となっています。『チーズの教本』第三章の最後は、チーズの食品としての機能が詳細に記されています。
🌟 一次機能:栄養食品として
たんぱく質、脂肪、炭水化物、が三大栄養素、さらに無機質(ネラル)、ビタミン、食物繊維を加えて六大栄養素と称しますが、チーズに関するそれらの要素についての紹介です。
また乳には新生児の育成に必要な成分がバランスよく含まれていますが、乳からチーズに移行する主たる栄養素の比率はは、
- たんぱく質:75%
- 脂肪:90%
- カルシウム:70%
となっています。
以下の表は主だったチーズと比較参考になる乳製品の成分表です。
Kcal | 水分 g | たんぱく質 g | 脂質 g | MG/ES | 炭水化物 g | 食塩相当量 g | カルシウム mg | ビタミンA μg | |
カッテージ | 99 | 79.0 | 13.3 | 4.5 | 21.4 | 1.9 | 1.0 | 55 | 37 |
リコッタ | 159 | 72.9 | 7.1 | 11.5 | 42.2 | 6.7 | 0.4 | 340 | – |
マスカルポーネ | 273 | 62.4 | 4.4 | 28.2 | 75.0 | 4.3 | 0.1 | 150 | 390 |
モッツァレッラ | 269 | 56.3 | 18.4 | 19.9 | 45.5 | 4.2 | 0.2 | 330 | – |
クリーム | 313 | 55.5 | 8.2 | 33.0 | 74.2 | 2.3 | 0.7 | 70 | 250 |
山羊 | 280 | 52.9 | 20.6 | 21.7 | 46.1 | 2.7 | 1.2 | 130 | 290 |
カマンベール | 291 | 51.8 | 19.1 | 24.7 | 51.2 | 0.9 | 2.0 | 460 | 240 |
ブルー | 326 | 45.6 | 18.8 | 29.0 | 53.3 | 1.0 | 3.8 | 590 | 280 |
エダム | 321 | 41.0 | 28.9 | 25.0 | 42.2 | 1.4 | 2.0 | 660 | 250 |
ゴーダ | 356 | 40.0 | 25.8 | 29.0 | 42.2 | 1.4 | 2.0 | 680 | 270 |
チェダー | 390 | 35.3 | 25.7 | 33.8 | 52.2 | 1.4 | 2.0 | 740 | 330 |
エメンタール | 398 | 33.5 | 27.3 | 33.6 | 50.5 | 1.6 | 1.3 | 1200 | 220 |
パルメザン | 445 | 15.4 | 44.0 | 30.8 | 36.4 | 1.9 | 3.8 | 1300 | 240 |
プロセスチーズ | 313 | 45.0 | 22.7 | 26.0 | 47.4 | 1.3 | 2.8 | 630 | 260 |
牛乳 | 61 | 87.4 | 3.3 | 3.8 | 30.2 | 4.8 | 0.1 | 110 | 38 |
バター | 700 | 16.2 | 0.6 | 81.0 | 96.7 | 0.2 | 1.9 | 15 | 520 |
ヨーグルト | 56 | 87.7 | 3.6 | 3.0 | 24.4 | 4.9 | 0.1 | 120 | 33 |
🧀たんぱく質
- チーズの製法によって含有たんぱく質は区々で5-40%
- 殆どがカゼイン由来でペプチドと遊離アミノ酸に分解されている状態=消化吸収されやすい
- 必須アミノ酸を含む20種類がバランスよく含まれる
- アミノ酸スコア(アミノ酸の構成比で食品栄養価を判定する指標)が高い
- 生物価(体内に入ったアミノ酸が体内たんぱく質に合成される度合)が
🧀脂肪
- チーズの製法によって含有脂肪率はo-35%
- 乳脂肪を構成する脂肪酸の62-63%が飽和脂肪酸
- 乳脂肪は短鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸を含んでおり体脂肪として蓄積されにくい
- チーズに含まれるカルシウムやビタミンB2は脂肪の代謝を良くする
- 風味成分にもなる=二次機能
🧀炭水化物
- 主な炭水化物は乳糖
- ホルスタインの乳には4.8%含まれ最も多い
- ほとんどの熟成チーズで2%未満の含有量
🧀カルシウム
- 熟成過程でできるカゼインホスペプチド(CCP)が腸管でのカルシウム吸収を助ける
- 2019年の厚労省の統計では、カルシウムについて食事摂取基準の推奨量に達していない
- カルシウム不足で起きる代表的な疾病「骨粗鬆症」防止にチーズは貢献できる
- エメンタール30gに360mgのカルシウム。これを一日の食事に追加すれば推奨量を満たす
- ビタミンDを豊富に含む(キノコ等)食品を同時に摂取することでカルシウム吸収率は上がる
🧀ビタミン
- チーズはビタミンAの補給源として優れる
- ビタミンBはホエイ排出で一旦出てしまうが熟成過程でまた生成される
- チーズにはビタミンCが欠けているので、野菜や果物と一緒に食べるとバランスが良くなる
🧀食塩
- 食塩はナトリウム量に2.54を乗じて算出した数値を食塩相当量として表示
- チーズによって必要な食塩の分量は区々(cf. 青カビチーズは多め、エメンタールは低め)。
- 一般に必要な食塩相当量は、成人男子で7.5g/日未満、成人女性で6.5g/日
なお、食物繊維については、チーズに含まれていないため、野菜や果物と一緒に摂取する事が推奨されています。
🌟 二次機能:嗜好食品として
日本においては学校給食を中心に栄養摂取目的として紹介されたチーズでしたが、時代の変遷とともにより嗜好性の強い食品に変わって行きました。現在では、さまざまなタイプのチーズがさまざまなシーンで積極的に取り入れられています。
チーズは歴史もあり、世界の殆どの地域でも特徴を持ったタイプが好まれる広さを持っています。さらに、その製造方法や原料に関して改良や新たなアイデアを取り入れる余地も多く、今後ますます嗜好食品としてのフィールドは広がって行くと考えられます。
🌟 三次機能:健康維持に役立つ食品として
最近の研究では、チーズは単においしくて栄養摂取になるというだけでなく、健康維持により積極的に働く事が分かってきました。
🧀筋肉増強
チーズに含まれるアミノ酸が筋肉増強に寄与します。
🧀骨粗鬆症予防
チーズの熟成中に生成されるカゼインホスペプチド(CCP)にはカルシウムの吸収促進効果があると言われています。
🧀虫歯予防
硬いチーズを食べると口の中のpHが下がりにくくなり、過度な酸性化を抑えます。また唾液の分泌が増え、歯のエナメル質溶解が抑制されるます。チーズが虫歯予防に繋がる事はWHOも認めているところです。
🧀認知症予防
カビ系のチーズに含まれる成分がアルツハイマー型認知症リスク軽減に繋がる可能性があることが最近言われています。
🧀高血圧予防
熟成チーズに含まれるラクトトリペプチド(LTP)には血圧上昇を抑制する働きがある事が判明しています。またカルシウムがナトリウムの排出を促す効果も認められています。
🧀その他
近年では、がん予防や胃潰瘍予防などの効果につていも研究が進められています。