チーズプロフェショナルへの道 その12       

 『チーズの教本』第 2章 チーズの原産地保護の制度について  

 チーズは、伝統的に生産地の風土や地理的要因が大きく影響します。そのため、特定の地域で生産される製品固有の特性や品質を保護し、ニセモノを排除する目的から幾つかの保護制度が各国で定められています。
 特にフランスにおいてはかなり早い段階からこのような問題意識が醸成され、ヨーロッパの中でも先駆的に具体的な制度を策定してきた歴史があります。

🌟 ヨーロッパにおける地理的名称保護制度

🧀ヨーロッパに於ける地理的名称保護の歴史
 ヨーロッパではその土地土地の風土と結びついた生産物を保護する意識が高く、ワインなどと同様にチーズにも保護制度
の歴史があります。まずフランスの原産地名称統制(A.O.C.)され、ついで各国に制度が整備されて行きました。時系列的にその主たる歴史事象を記すと以下のようになります。

  • 1952年 8ヵ国によるストレーザ協定(仏、伊、蘭、スイス、オーストリア、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)
  • 1958年 リスボン協定
  • 1992年 EUによる認証制度(現行の3つの制度)

🧀現行の制度
 現在施行されている3つの制度は、

  1. 原産地名称保護(P.D.O.)
  2. 地理的名称保護(P.G.I)
  3. 伝統的に特産品保証(T.S.G.)

で、1.が最も厳しい基準が設けており、製法や産地に関して名称に謳われた地域で決まった伝統的な製法で生産されている事を前提に、その地域の土地や自然の特徴を反映した製品である事を保証するものです。


 次に厳しいのが2.で、生産、加工、調整のうち少なくとも1つがその生産地域と結びついている事が条件とされています。品質については生産地らしい特性を備えている事が要求されますが、原材料については1つ以上が指定地域内のものであればOKという許容度があります。


 3.は、製法が伝統的な手法である事を認証するもので、原産地には関与をしない比較的ゆるい規定です。

 1.及び2.については、EUの各国で名称が微妙に異なっている他、EU加盟以外のスイスやEUを2020年に脱退したイギリスでもそれに相当する基準が設けられています。

🌟フランスの制度

 フランスにおけるP.D.O.の制度は、A.O.P.と言う略語で表示されます。A.O.P.の登録申請には製造地域や製造方法などの詳細を記載した仕様書が保護管理機関の指導によって入念に作成されなければなりません。その仕様書は、まずフランス国内で認定された後にEU委員会で認定されるというステップを踏みます。

 またフランスには、そのA.O.P.登録の前段階という位置付けでA.O.C.という制度も設けられており、こちらはINAOという元々は高級ワインの認定を行う機関がその認証をします。A.O.C.を取得しないとA.O.P.認証へ進めず、またA.O.P.取得が出来ないとA.O.C.認証も取り消されてしまう厳しさです。日本語では、A.O.P.が原産地名称保護と訳されるのに対し、A.O.C.は、原産地名称統制と訳されます。


 また、フランスでのP.G.I(地理的名称保護)は、T.G.I.という略語で表示されます。

さらにフランスにはラベル・ルージュという独特の品質保証ラベルがあります。これは、類似品に比べて優れている品質を持つ製品を意味する表示で、1960年の農業基本法に基づいて制定されたものです。対象はチーズのみならず、肉、魚、貝、野菜、果物、卵、パン等広い範囲での食品に適用されています。

🌟イタリアの制度

 イタリアでは原産地名称保護制度P.D.O.はD.O.P.という略語で表示され、それぞれのD.O.P.チーズはチーズの保護協会(consorzio)でしっかり管理をされています。どのチーズのconsorzioも伝統的な品質を管理しながら、より良いものにするための活動を継続的に行なっていますが、生産者だけでは客観的な視点が欠けるとの理由からEUは1992年の条約制定時に民間の試験所での検査を規定しました。

 イタリアの主な保護協会はイタリアD.O.P.チーズ協会(AFIDOP)に加盟し、I.G.P.チーズを含めて品質保証制度で認定されたチーズの普及促進を図っています。

 また、イタリア農林水産政策省は、EU基準には満たないながら四半世紀に渡って各地域で造られている食品を対象としてP.A.T.という認定を設け、小規模生産者や地域の食文化保護に努めています。

🌟スイスの制度

 スイスはEUに加盟していないため、P.D.O.に相当する認定基準がありませんが、2000年にフランスのA.O.C.(地理的名称統制)に準じたA.O.Cを制定しました。さらに2013年以降は、EUの品質認証システムに準拠してスイス独自のA.O.Pを設けました。

🌟U.K.(イギリス)の制度

 イギリスは、2020年12月末をもってEUから離脱してしまったので、EU基準には準拠せず独自のGI(地理的名称保護)を採用する事になりました。表示マークも完全にイギリス独自のものです。
 ただし、EU離脱前にEUの名称保護取得済みのものもあるので、それらについては細かく具体的に規定が定められています。

  • 2020年12月末時点でEUの名称保護を取得しているもの
    →今後もEU、英国両方で名称保護の対象
  • イングランド内で販売されるイギリス産のEU名称保護取得製品
    →2024年1月1日以降は新しいイギリス保護マークが必要
  • イングランド内で生産されきたアイルランドで販売されるEU名称保護取得製品
    →今後新しいイギリス保護マークの表示が許容される
  • イングランド内で生産されイギリス外で販売されるEU名称保護取得製品
    →任意でイギリス保護マークを表示が許容される
  • イギリス産のEU名称保護取得製品をイギリス国内やその他の国で販売する場合
    →任意でEU保護マークの表示が許容される

🌟他のEU各国での原産地名称保護表示まとめ

国名P.D.O.(原産地名称保護)
フランス🇫🇷A.O.P.
イタリア🇮🇹D.O.P.
スペイン🇪🇸D.O.P.
ポルトガル🇵🇹D.O.P.
ドイツ🇩🇪g.U.
オーストリア🇦🇹g.U.
ベルギー🇧🇪A.O.P.
オランダ🇳🇱B.O.B.
ギリシャ/キプロス🇬🇷P.D.O.

🌟日本における地理的制度

 日本ではヨーロッパに比べて地理的表示を保護する制度が遅れていましたが、2015年に農林水産物に一定の品質基準を設け、さらに品質と地域との関連性がある製品を国が保護するための法律「地理的表示法」が施行される事になりました。
 その法律に則り、地理的表示に認定された製品にはGIマークが付けられます。
 すなわち、

  • 地名
  • 産品名
  • GIマーク

がセットで表示される事になります。ただその要件は結構厳しいもので、

  1. 産品の特性
    ・差別化がされた特徴を持っている
    ・25年を目安とした一定の継続性産期間の実績
  2. 生産地の特性
    ・その土地の自然環境を利用している
    ・その地域ならではの伝統的製法が用いられている

と言った要件を満たす必要があります。また、その申請も生産者個人では出来ず、地域の生産者や商工会議所及び自治体などと連携した団体が行う必要があります。
 その審査も容易なものではなく、4段階にも及ぶチェックを時間をかけて受ける事になるため、晴れてその認定を受けるには厳しくかつ大変長い道のりなのです。
 そんな条件を乗り越え、北海道の『十勝ラクレット』が2023年4月に国内初のGI認定を受ける事が出来た事は快挙というべき出来事だと思います。

🌟日本における海外のGI相互保護について

日本では海外との地理的表示保護に関して、相互保護の協定が段階的に結ばれています。

  • 2019年 EUとEPA(経済連携協定)が発効
  • 2021年 日英包括的経済連携協定

 その結果、2024年現在、

  • 現在日本における海外産品は109品(EU 106+イギリス 3)そのうちチーズは34品
  • 日本GIでEUで指定されているもの95品 イギリスで指定されいてるもの47品

となっています。
 

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