チーズプロフェッショナルへの道 その23
『チーズの教本』第 2章 地域別チーズ④ スペイン&ポルトガルのチーズ
『チーズの教本』の国別チーズ紹介の四番目はスペイン、そして五番目はポルトガルです。それぞれ『チーズの教本』に割かれているボリュームは、スペインが10ページ、ポルトガルは4ページと少なく、さらにチーズプロフェッショナル試験対策として重要度の高いアイテムは両国併せて15種類程度であるため、この記事にて同時に扱います。
🌟 スペインのチーズを取り巻く環境
スペインで生産されるチーズの特徴は、羊乳や山羊乳製のものが多い事です。これはこの国の地理的要因に大きく依っています。スペインが位置するイベリア半島周辺の大西洋や地中海に面した地域は緑豊かな環境ですが、中央地域(メセタ・セントラル)やフランス国境は山岳地帯(ピレネー山脈)が広がっており、羊や山羊の生育に向いています。
また12世紀から19世紀まで羊毛業が盛んだったところ、化学繊維との置き換わりがあり羊が乳製品生産用に転嫁されたという事情があります。
スペインの各エリアの大まかな特徴は以下のようになります。
- 北西部(ガリシア州、アストゥリアス州等)の牛乳製チーズ
- 山間部(各地域)の山羊乳製チーズ
- 内陸部の羊乳製チーズ
またスペインでは、それぞれの乳を混ぜ合わせた混乳製のチーズが多いのもの一つの特徴です。
🌟 スペイン北東部のD.O.P.チーズ
フランスとの国境にはピレネー山脈が横たわっており、バスク地方やナバラ州では伝統的に羊乳製チーズが多く生産されています。
🧀イディアサバル
ラチャ種、カランサナ種といった、この地域に生息する羊の無殺菌乳を使用し、仔羊のレンネットを用いて作られる。燻製加工したものが多く、羊乳製らしいアイボリーの生地と濃いオレンジ色の表皮。
- 原語表記:Idiazabal
- 産地:バスク自治州、ナバラ州
- タイプ:ハード
- 乳種:羊(無殺菌)
- 熟成期間:最低60日
- 形状:円盤形 直径10-30cm 高さ8-12cm 重さ1-3kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):45%
🌟 スペイン北部のD.O.P.チーズ
ガリシア州にあるサンチャゴ・デ・コンポステーラはキリスト教の三大巡礼地として有名で、かつてそこに向かう巡礼路では巡礼者へこの北部地域で作られたチーズが多く供給されたと言われています。
この地域は緑のスペインと言われており緑の多い地域で、北部沿岸に横たわるカンタブリカ山脈では牛乳製のチーズが多く作られています。
また海からの風を洞窟で利用した青カビチーズの製造も行われています
🧀カブラレス
カブラレスはアストゥリア州東部の地域の名前で、こことペニャメジュラ・アルタにある3つの村だけで生産される希少なチーズゆえ「幻のチーズ」とも言われる。3種の動物の混乳を使用した青カビチーズで、ピコス・デ・エウロパ山脈にある洞窟の中で自然に青カビを生育させる。濃厚な味わいとピリっとした刺激が特徴。
- 原語表記:Cabrales
- 産地:アストゥリアス州
- タイプ:青カビ
- 乳種:牛、羊、山羊の混乳(生産者により無殺菌)
- 熟成期間:最低2ヶ月
- 形状: 直径規定なし 高さ7-15cm 重さ規定なし
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🌟 スペイン北西部のD.O.P.チーズ
スペインの西端ガリシア州。巡礼地チャゴ・デ・コンポステーラがここにあります。北部同様、緑が多く牧畜及び酪農に適した環境ゆえ、さまざまな特徴ある牛乳製のチーズが作られています。
🧀ケソ・テティージャ
特徴的な形をしたこのチーズは、Teta(乳房)というスペイン語が名前の由来。穏やかな風味とクリーミーな食感のソフトタイプチーズ。緑の多い北西部らしい牛乳製チーズで甘味と酸味のバランスが良くスペイン国内でも人気。
- 原語表記:Queso Tetilla
- 産地:ガリシア州
- 乳種:牛
- タイプ:ソフト
- 熟成期間:最低7日
- 形状:おっぱい型 底面9-15cm 高さ9-15cm 重さ500g-1.5kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🧀アルスア・ウジュア
アルスアもウジョアもこの地域の村の名前。温暖で穏やかな気候の草原地帯で育てられる牛の乳で製造されるソフトチーズで、製造時は側面に包帯が巻かれる。
まったりとしたクリーミーな食感で柔らかな酸味が感じられる優しい風味。
- 原語表記:Arzua-Ulloa
- 産地:ガリシア州
- タイプ:ソフト
- 乳種:牛
- 熟成期間:最低6日 熟成タイプは6ヶ月
- 形状:円盤形 直径10-26cm 高さ5-12cm 重さ500g-3.5kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🧀サン・シモン・ダ・コスタ
大きなどんぐり、または筍のようなユニークな形をしており、「アベドゥール」という樺の木で燻製加工がされている。もっちりした生地に香ばしいコーヒー牛乳のような香り。
- 原語表記:San Simon da Costa
- 産地:ガリシア州
- タイプ:ハード
- 乳種:牛
- 熟成期間:大型=最低45日 小型=最低30日
- 形状:どんぐり型 大型=底面13-18cm 重さ800g-1.5kg 小型=底面10-13cm 重さ400g-800g
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45-60%
🧀セブレイロ
セブレイロは峠の名前で、ここは聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへの入り口となっている。
このチーズは熟成をさせないフレッシュチーズ。真っ白な色でマッシルームのような形状が特徴的である。
- 原語表記:Cebreiro
- 産地:ガリシア州
- タイプ:フレッシュ/ソフト
- 乳種:牛
🌟 スペイン中部のD.O.P.チーズ
イベリア半島中央部は降雨量が少なく乾燥した地域で、羊の生育に適しているため羊乳製のチーズが多く作られます。またポルトガルとの国境を接しているエストレ・マドゥーラ州ではポルトガルチーズの特徴であるアーティチョークから抽出した植物レンネットを用いたチーズも作られています。
🧀ケソ・マンチェゴ
イベリア半島中央部の乾燥した地域で作られる、スペインを代表するハードチーズ。この厳しい自然環境にフィットしたマンチェガ種の羊の乳が使われ、無殺菌で手作りのものと工場で作られる低温加熱殺菌乳のものの2種がある。
側面には細かい縞模様が入っているが、これはかつて「エスパルト」と呼ばれる茅の1種で編んだ帯で巻かれてた名残りで現状は模様だけ継承している。
この独特の香ばしさを持つ羊乳ハードは熟成とともに旨みが深まっていく。メンブリージョと呼ばれるジャムと共に食べるのが伝統。
- 原語表記:Queso Manchego
- 産地:カスティージャ・ラ・マンチャ州
- タイプ:ハード
- 乳種:羊(無殺菌or低温加熱殺菌)
- 熟成期間:最低30日
- 形状:円盤形 直径22cm以下 高さ12cm以下 重さ400g-4kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低50%
🧀ケソ・デ・ラ・セレナ
メリノ種の無殺菌羊乳を使用し、植物レンネットで凝固される。柔らかくスプレッド状の生地で、ホールの外側は布で巻かれている。コクがあり深い味わい
- 原語表記:Queso de la Serena
- 産地:エストレ・マドゥーラ州
- タイプ:ソフト
- 乳種:羊(無殺菌)
- 熟成期間:最低20日
- 形状:円盤形 直径18-24cm以下 高さ4-8cm 重さ750g-2kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低50%
🧀トルタ・デル・カサール
ケソ・デ・ラ・セレナと同様に無殺菌の羊乳を使用し、植物レンネットで固める。ホール側面に布製のベルトが巻かれているところも共通している。
極めて柔らかい状態のため、スプーンで掬って食べるのが一般的。
- 原語表記:Torta del Casar
- 産地:エストレマドゥーラ州
- タイプ:ソフト
- 乳種:羊(無殺菌)
- 熟成期間:最低60日
- 形状:円盤形 直径最低7cm 高さ 直径の1/2以下 重さ500-1.1kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):50%
🌟 スペイン南部のD.O.P.チーズ
イベリア半島の地中海沿岸と地中海に浮かぶ島々は温暖ながら乾燥しており、山羊の生育に適した地域。スペイン南部及びこの周辺の島では多くの山羊乳製のチーズが製造されています。
🧀ケソ・デ・ムルシア・アル・ビノ
ムルシアーノ・グラナディナ種という山羊の乳から作られる。ホールをこの土地の赤ワインに浸漬し保存性を高めながら熟成させる。
ワイン色のホールに山羊乳らしい白い生地で、濃厚ながらも爽やかさを感じる複雑な味わいが特徴。
- 原語表記:Queso de Murcia al Vino
- 産地:ムルシア州
- タイプ:ハード
- 乳種:山羊
- 熟成期間:最低45日
- 形状:直径19cm以下 高さ10㎝以下 重さ300g-2.6kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):45%
🧀マオン・メノルカ
地中海バレアレス諸島のメノルカ島の牛乳製ハードチーズ。この島の空気の特徴である湿度と塩気は、牛の餌となる牧草を通してチーズにも反映されて独特の風味を醸し出す。
外皮にはオリーブオイルとパプリカが塗ってあるためオレンジが買った黄色をしている。無殺菌乳を使用した手作りのものは「アルテサーノ」と称される。
- 原語表記:Mahon Menorca
- 産地:メノルカ島
- タイプ:ハード
- 乳種:牛(無殺菌もある)
- 熟成期間:最低21日
- 形状:丸みを帯びた四角 直径19cm以下 高さ5-9㎝ 重さ1kg-4kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低38%
🧀ケソ・マホレロ
モロッコに近いスペイン領カナリア諸島にあるフェルテベントゥーラ島で作られる山羊乳製ハードチーズ。マホレラはこの地域に住む野生の山羊の名前。この種の山羊の乳は脂肪分が高くタンパク質も豊富で、この乳で作られたケソ・マホレロは他の山羊乳チーズより濃厚な味わいとなる。
- 原語表記:Queso Majorero
- 産地:カナリア州
- タイプ:ソフト/ハード
- 乳種:山羊(最大15%まで羊乳を混ぜる事が可能)
- 熟成期間:ソフト=最低8日 半熟成=最低21日 熟成=61日以上
- 形状:直径15-35cm 高さ6-9㎝以下 重さ1kg-6kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):52-55.5%
🌟 スペインのI.G.P.チーズ
🧀ケソ・デ・バルデオン
青カビ育成のためにホールに針で穴を開けた後、塩水に浸した楓の葉で包んで熟成させるという独特の製法を持つ。若干グレーがかったような生地になることが多く、また混乳のため濃厚でコクのある味わいとなる。
- 原語表記:Queso de Valdeon
- 産地:カスティージャ・イ・レオン州
- タイプ:青カビ
- 乳種:牛、山羊の混乳(羊乳を混ぜても可)
- 熟成期間:最低2ヶ月
- 形状:重さ500g-3kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45%
🌟 スペインの認定外チーズ
🧀ガロチャ
カタルーニャ州のピレネー山麓で作られる、歴史の古い山羊乳チーズ。湿気が多めのチーズで表皮は青っぽいカビに覆われる。
中身はしっとりとした生地で、酸味と甘みのバランスが良い。
- 原語表記:Garrotxa
- 産地:カタルーニャ州
- タイプ:ハード
- 乳種:山羊
- 熟成期間:最低3週間
- 形状:直径15cm 高さ7-8cm 重さ1kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):57%
🌟 ポルトガルのD.O.P.チーズ
イベリア半島の西端に位置するポルトガルは南北に長い形をしており、気候的には地域及び季節による差が大きいことが特徴です。
地勢的な事情や産業の歴史的背景はスペインと似ており羊の数が多く、伴い羊乳のチーズが多い地域です。また大西洋に浮かぶ島では牛乳製のチーズも作られています。
ポルトガルのチーズ製造の特徴として、アーティチョークのおしべから摘出した植物レンネットが多く使用されています。
🧀ケイジョ・セーラ・ダ・エストレーラ
ポルトガルを代表する羊乳製ソフトチーズ。ポルトガル中部地方にいるボルダレイラ・セーラ・ダ・エストレーラ種かシュラ・モンデゲイラ種の羊乳を植物レンネットで固める。カードをモールドに押し込んだ後、外側を布製のベルトで巻いて熟成させる。
中身は極めて柔らかくスプーンで掬って食べるのが一般的。ややクセがあり濃厚な味わい。
- 原語表記:Queijo Serra da Estrela
- 産地:中部地域 エストレーラ山脈
- タイプ:ソフト
- 乳種:羊(無殺菌)
- 熟成期間:最低30日
- 形状:直径9-20cm 高さ4-6cm 重さ500g-1.7kg
- 固形分中乳脂肪量(MG):最低45-60%
🧀レケイジャオン・セーラ・ダ・エストレーラ
ケイジョ・セーラ・ダ・エストレーラを製造する際に排出されるホエイを固めたもので、イタリアのリコッタに相当するもの。ただし羊乳であるため風味はリコッタより若干クセのあるものとなる。
- 原語表記:Requeijao Serra da Estrela
- 産地:中部地域 エストレーラ山脈
- タイプ:該当なし
- 乳種:羊(ホエイ)